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「自社アセットを活用せよ」・「自社の強みを活用せよ」の罠 — 新規事業を停滞させる“認知のズレ”と克服法
「新規事業を立ち上げるなら、当然我が社のアセット(技術や営業網などの強み)を活用すべきだ」。
多くの大企業で当然のように示されるこの方針が、実は新規事業の推進を著しく停滞させている。そんなケースが少なくありません。
なぜ「自社の強みの活用」を意識するほど、事業化が進まなくなってしまうのでしょうか。100社以上の現場調査で見えてきた、経営層と現場における「認知のズレ」の実態と、その突破法を解説します。
1. 「自社アセット活用」をめぐる経営層と現場の認識ギャップ
自社の強みを軸にした事業開発において、意思決定側(経営層)と推進側(現場)の間には、次のような視野や前提のズレが生じています。
1-1. 経営層の視野:「自社アセットの活用」が前提であるという認識
社内で実績を積み上げてきた経営層や役員の多くは、既存事業の成功体験にもとづいて組織を導いています。しかし新規事業の立ち上げ経験が少ない場合、「自社のアセットを活用すること」自体が事業の絶対条件であるかのように捉えてしまいがちです。
「なぜ我が社がやるべきなのか」という社内的な説得力やスケール感を重視するあまり、アセットの存在を前提としたアイデアを求めることになります。
1-2. 現場の視野:真面目さゆえの「社内説明の沼」と無力感
社内歴が長く誠実な現場担当者ほど、経営層の示す方針を正解として受け止め、自社アセットの棚卸しや活用法の検討に打ち込みます。しかし、「なぜ自社でやるのか」を優先して考案されたアイデアは、往々にして顧客ニーズと乖離します。
現場も薄々「強みばかりを考えていても事業化はできないのではないか」という違和感を抱いています。それでも打開策が見えず、顧客検証に着手できないまま、社内説明資料の作成と机上検討だけで時間が過ぎていく — そうした葛藤に陥ってしまうのです。
2. 「認識のズレ」は、社員の能力不足が原因ではない
この停滞の本質は、現場担当者の推進力不足やアイデアの質の低さ — つまり個人の能力の問題ではありません。職位によって見ている観点や負っている役割が異なるために生じる、組織的な構造課題です。
同じ「自社アセット」という言葉を使っていても、立場が違えば見えている世界と捉え方は根本から異なります。
- 経営層の観点:全社最適や株主への説明責任を負うため、アセットを「投資対効果を最大化し、事業規模を担保するための自社独自の強み」として捉える。
- 現場の観点:目の前の市場や顧客に向き合うため、アセットを「具体的な顧客課題を解くためのパーツ(解決の手段)」として捉える。
職位によって求められる責任や観点が違うからこそ、同じ言葉を使いながらも認知のギャップが生まれてしまいます。現場で生じているモヤモヤは、個人の努力やスキルで解決できる「技術的課題」ではなく、組織の構造に起因する「適応課題」なのです。
3. 新規事業に必要な「事業開発」と「組織開発」
新規事業を成功させるためには、「事業開発」と「組織開発」という2つの要素が両輪で不可欠です。
事業開発においては全体像を捉えたうえで、インキュベーションフェーズでは「顧客・課題・解決策」の仮説検証に軸足を置き、アクセラレーションフェーズでは戦略・顧客獲得導線・オペレーションを踏まえたビジネスモデルを構築していきます。そしてそれと並行して、関係者の認識合わせや意識改革といった組織開発を進めることが欠かせません。
昨今、事業開発のノウハウやフレームワーク(How to)を支援するサービスやコンサルティングは急速に普及してきました。しかし、「組織開発」の側面に着目し、組織内の機能不全を根本から解決へと導くアプローチは、まだまだ少ないのが現状です。
多くの場合、当事者自身が「停滞の根本原因が組織課題(認知のズレ)にある」こと自体に気づけていません。そのため、どれだけ事業開発のノウハウを学んでも、既存の評価基準や社内関係性に阻まれ、事業が途中で立ち行かなくなってしまうのです。

4. 停滞を打破する、対話の3ステップ
見えにくい組織課題を可視化し、乗り越えていくために必要なのが「対話」です。新規事業で陥りがちな「自社アセット活用の呪縛」による停滞を乗り越えるには、以下の3つのステップを一つずつクリアしていく必要があります。
STEP 1:過度な同調からの脱却と「本音と恐れ」の言語化(土壌づくり)
社内の空気に同調して本音を伏せる「沈黙のマインドセット」を打破し、対人関係のリスクを安心してとれる心理的安全性を確保します。
経営陣の「事業を成功させたい正義と、失敗への恐れ」。現場の「顧客課題に向き合いたい役割と、事業開発停滞への恐れ」。それぞれの本音や恐れを内省・言語化し、互いの背景を傾聴し合える対話の土壌を育みます。
STEP 2:建設的な対立を通じた「アセットの再定義」
安全な土壌を形成するだけでは、認知のギャップは解消されません。あえて「自社アセットとは何か」というところから関係者それぞれの視野の違いについて対話し、経営者のグロースの観点と現場の顧客課題の観点の両方を踏まえて、双方が納得し協力できる合意形成を図ります。
参加者が「異なる視野を共有することで新しい方向性を見いだせた」という経験を認識することで、今後も異なる意見を臆せず共有していこうという姿勢が生まれます。
STEP 3:実践への落とし込みによる成功体験の積み上げ
そして、対話だけで終わらせず、現実のアクションへ落とし込みます。対話のなかで見出されたアセットの定義にもとづき、事業の仮説検証を推進する手順を具体化します。
実際に検証が進んだ先に、「アセットの認識についてじっくり対話をすることで、最終的に企業として顧客課題を解けた」という共通の成功体験を重ねる。それによって認識のズレが解消され、次回からは関係者がそれぞれの立場から自律的に動ける組織(自走体制)へと進化していきます。
5. まとめ
自社の強みに固執するあまり新規事業が進まない現象は、当事者の能力問題ではなく、アセットの位置づけに関する「組織内の認知のズレ(無自覚な組織課題)」が引き起こしています。
- 同じ「自社のアセット」と言っても、立場や経験によって捉え方が異なる
- 新規事業には「事業開発のノウハウ」だけでなく、認知のギャップを乗り越える「組織開発(対話)」が必要である
- 「過度な同質性の打破」と「建設的な対立」を通じた合意形成と実践が、実際に事業を作り出せる自律型組織を育む
当社では、イノベーション関連部署の方を対象に、組織内の認識乖離を対話を通して解決し、合意形成と実行力のスピードを高める対話型チームビルディングプログラム「SHINKA」を提供しています。自社アセットの活用や事業開発の停滞でお悩みの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。
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